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「『教えない』英語教育」市川力著 中公新書ラクレ

「『教えない』英語教育」市川力著 中公新書ラクレ

「『教えない』英語教育」市川力著 中公新書ラクレを読んだ。

私にはめずらしく新刊で買いましたが、これはお値打ち品。

最近の私のバイブル「なんで英語やるの?(中津 燎子著) 文春文庫」で、著者は英語ができるようになるための鍵として、「発音」と「自他を明快に分ける思考」を挙げている。

ところが、日本人は発音ができていないので、「なんで英語やるの?」「再びなんで英語やるの?」の双方に於いて、発音指導だけで終わってしまっていた。

後段について語ってくれたのが、今回の「「教えない」英語教育」である。

また、荒木博之著「日本語が見えると英語も見える」中公新書では、何の説明もなく「私は日本語の定まらない小学校三、四年までに英語「を」教えることには反対であるが、英語「で」教えるのは小学校1年からでもちっとも構わないと考えている」(123ページ)と書き捨てていたが、その具体的な内容、指導方法の例などが、この本に紹介されている。

続く

またこの本では「遊び場言語」と「教科理解言語」との違い。あるいは、「子供英語」と「大人英語」という概念が出てくる。

以前「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」(鳥飼玖美子著)講談社現代新書を紹介したときに、その本でカミンズ(Cummins)が言語能力を BICS (Basic Interpersonal Communication Skills) と CALP (Cognitive Academic Language Proficiency) とに分けていることを紹介している。 (146ページ)と書いた。

前者は基本的な対人コミュニケーション能力であり、後者学校での学習などを可能にする知的活動を行うための言語能力を指す。

カナダへの移民子供研究した結果前者は比較的短期間に習得されるが、後者は数年かかることを発見した。


これが今回「子供英語」と「大人英語」として使われているようである。

現在一部で行われている早期英語教育は、ゲームや歌などの遊びの要素で「子供英語」を覚えさせるものであるが、小学校の高学年になると、これらの子供だましには飽きてしまう。

子供英語から大人英語への橋渡しをする小学校高学年での英語教育が必要なのだがここが重要視されていないことから、子供英語に熱心に取り組んでいた子供も、その後、大人英語に切り替えられず英語が嫌いになってしまうケースが多いと述べている。

以下、私のコメント

日本人の多くの人が学ぼうとしているのは、「子供英語」なのではないか。

海外旅行に行ったときに困らないように、とか、道で外国人に質問されたときに困らないようにとか言うレベルであれば、これは「子供英語」で十分である。

そうであるならば、「子供言葉を学ぶように」といううたい文句に踊らされて巷の英会話学校の通う人がたくさん出ていても、嘆くべきことではないのかも知れない。

もちろん、現在中学高校英語教育で「大人の英語」が教えられているというつもりは無いのだが。

この点はひとり英語の問題にとどまらない(広い意味でのコミュニケーション能力、他文化理解・尊重などなど)ので、大きな見地からの検討が必要だと思っている。

幼児英語教室に通わせて満足している勘違いお母様方には是非読んでいただきたい本。

この本は早期英語教育を否定しているものではなく、「大人英語」につながる形での「子供英語」の教え方、あるいは土台作りについて提示しているので、必見である。