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趣味としての外国語学習

「英語多読法」小学館101新書

英語多読法」小学館101新書

 

図書館に予約していたのがようやく到着。一晩で読みました。

とても良かったです。

多読原理主義と多読全否定主義のどちらにも付かず、色々な研究の結果も取り入れながら、スッキリした展開です。

 

学校英語教育における多読の効果が良く語られるのですが、英語に触れる時間が絶対的に足りない中で「学校英語教育+多読」を実践するならば、学校英語教育に比べてプラスアルファの分の効果があるのは当然です。

 

効果があると言うためには「学校英語教育+英語補習」と「学校英語教育+多読」を比較しなければなりません。(かつ英語補習と多読を同様な時間に調整し、かつ学習者のレベルも同じにする)

 

教育に於いてはこのような実験は倫理的な問題があるので難しいのですが、著者の運営する学習塾SEGにおいては「多読クラス」の他に語彙・文法・精読を中心とする「精読クラス」があるので、この比較が可能になっています。(その結果、多読が効果があると結論付けている)

 

多読と言いつつ、多読三原則に従いつつも量が伴っていない人も多い中で、「SSS方式の「多読」は少なくとも週1時間、年間50時間以上の時間を費やして行うものを指しています」と、量の重要性を再度強調しています。

 

また、「知らない単語が全体の5%以下の本を選ぶ」ということを、Paul Nation の説を引いて強調しています。

 

多読万能主義の主張で「多読で未知語が習得できる」とする時に、その他の人たちと議論が始まるのですが、「知らない単語が全体の5%以下の本」を読むという前提があれば、議論は歩み寄れると思います。

 

それ以外に興味深かったのは、以下の二つです。

1.英語力の伸びの方程式

(英語力の伸び) = (読書量)x(理解度)^4 

です。

英語力の伸びは理解度を4乗した数値と英文の量を掛けた数値に比例するというものです。

この方程式から、理解度を100%とすること(その場合読むスピードが落ちるので読書量が減って結果として英語力の伸びが落ちる)を目指すよりも、理解度を落とすことを提案しています。(最低70%)

 

2.SEGにおける多読三原則の修正バージョン

・辞書を引かずに楽しめるものを読む

・わかるところをつなげて読む

・自分が面白いと思う本を選んで読む

 

 

著者の意見と必ずしも合意していない点、考えたことは以下の通りです。

 

1.「学校の授業では「英語を日本語に置き換えて理解する」練習をしているように思われます」(21ページ)

 

ここの文末を「思われます」とした点が興味あります。現場の英語の先生の意見も聞きたいです。

生徒が正しくインプットを理解しているかどうかを評価するのに、生徒のアウトプットを使用するしかないという限界があり、かつ外国語のレベルが低い段階では母語でアウトプットさせるしかない。結果として日本語訳文の出来具合を英語でのインプット理解度の近似とするしかないという限界があります。

そこでは、生徒の頭の中でどのように英語理解->訳文づくりが為されているかは英語教師は興味がないのではないかと思っています。

生徒の中には直読直解で理解し、その後に日本語に訳出している人もいれば、逐語日本語訳した後に日本語で理解している人もいるのではないかと思います。そこへの教師の配慮の無さが問題の一つではないかと考えています。

 

この関連で考えたのは、英語教育と英語習得ではアプローチが違ったのがそのまま残ってしまったのではないかということです。

先日参加した日本通訳翻訳学会で、英語教育で行われていた逐語訳読法は、当時の訳文がそのような翻訳調であることが求められていて、そのような翻訳ができる人を作るための英語教育が行われていたとの話がありました。そこでは生徒の英語力が伸びることは期待されておらず、逐語直訳調の訳文を作れるようになることが目的だったわけです。

 

そのような要請が減ってきたにもかかわらず、学校英語教育が変わっていないという部分もあるのかも知れません。(未だに哲学などの分野では逐語直訳調でないとダメらしいです)

 

2.英文を理解する時に必要な4つの力

 

ここで著者は、文脈力、連語力、単語力、文法力の4つを上げています。

文脈力については(英語とは独立した)背景知識のことだと思って読み進めたのですが途中に「文脈に合わせて言葉を使う力(文脈力)」と出てきたので混乱しました。この意味で使うのならば、連語力、単語力に含めるのが良いと思いました。その意味で連語力と単語力を分ける必要も無いのではないかと思いました。

 

文法力については、最終目的が文法的に正しく英語が使えることで、文法的な説明ができることでは無いということであれば、ここまで要求する必要はないのかなと思いますが、受験勉強であればこれもやむを得ないのかも知れません。

大学に進んで第二外国語をやる場合に文法説明が分かり易いということもあるでしょうし。

  

 

本書の狙いではないので書かれていないことで、著者に追加で聞いてみたいことは以下の通りです。

 

1.訳すことについての対応

 

受験勉強であれば英文和訳の問題にも対応しないといけないわけですが、直読直解で理解した後に日本語に訳出することについての指導をどのようにしているか。

 

2.学校英語教育の批判の中に、文法教育とその他の英語教育が分断されているというものがあるが、SEGで多読と分断された形でネイティブ講師による文法教育が行われていることについてどのように考えているか。気づきの点からは実際に多読の中で出会った文法事項についての指導が望ましいと思われるが、各人が異なる本を読んでいる中でそのような指導は不可能と思われるが。

 

3.アウトプットへのつなぎ方の指導

コミュニカティブアプローチの前提としての大量のインプットとしての多読から、英作文あるいは会話への展開をどのようにしているか。

 

 

全体として理系出身の著者らしい論理的な展開で気持ちよかったです。

社会人向けにも使える内容です。(アウトプットのところは別途考える必要がありますが、まずは大量のインプット!) 

お薦めです。


 

 

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