2006-05-07
作業中
メインサイトの「サルバトール・だれ」から、書評の記事をこちらにコピーしました。
こちらのサイト一つで、「寅彦の語学ワールド」を完結したいと思います。
書評以外の外国語ネタも、少しずつ移動させたいと思いますが、記事が200件近くありますので、いつ完成できるかは不明です。
英語のレベル
4月21日の記事に、Sさんがコメントしてくださいました。その中に、以下の記述がありました。
(引用開始)
最近私の周りに数人いる外国帰りで英会話の得意な人たちに接して気づいたのですが、彼らのTOEICの点数は700点台が多いのです。読み書きの(特に読みの)練習不足が原因のようなのですが、最近まで読めなければ話せないと信じていたので、最近少し考え方を変えようと思っています。
(ここまで)
「第二言語習得研究の現在」(大修館書店)の91ページに、興味深い記述があります。
「日常生活に必要な言語能力、つまり、Cummins(2000)の言う『会話言語能力(conversational language proficiency)』は1年から2年で身につくが、『学業用言語能力(academic language proficiency)』が年齢相応の能力にまで到達するのには、5年から9年という長い時間が必要で、そのような能力を第二言語で身につけられないままになる場合も大いにあるというものである」
「例えば、中島(1998)によれば、北米に滞在する日本人生徒の場合、2年目で80%が基本的な会話力を身につけるとする。年少児(2・3年生)の方が年長児(5・6年生)よりも会話テストの点数が低く、これは一般の『年齢の低い子は言語習得が早い』という通念とは異なる結果となっている。また、学業に不可欠な英語読解力については、学年偏差値に近づくのに平均で4・5年かかっている」
英語で話す日本人を見て「英会話ができて良いなぁ」と思うとき、必ずしも相手が会話言語能力のレベルなのか、学業用言語能力まで達したレベルなのかは吟味しません。
日本語であっても、小学生は低学年であってもペラペラと良くしゃべりますが、彼らが新聞の社説をすらすら読むことは考えにくいです。
取るに足らないことをしゃべっていても、話せない人にとって見ればとてもすごいものに見えることはあります。
Sさんの周りの英会話の得意な人というのも、会話言語能力は身につけたが、そこから先はまだまだこれからというレベルの人たちだったということでは無いでしょうか。
個人が人の外国語の能力を判断するのに、会話の能力を重視していると思います。
私のフィルターを使って説明しますと。
例えば日常会話/小学生のレベルのインプットフィルターの大きさを20とします。
大人の会話/成人のレベルを100とします。
読むことを中心として勉強してきた我々は、外国語のインプットフィルターが100近くまで形成されているにもかかわらず、会話のトレーニングが少ないことから、アウトプットフィルターは限りなく0に近くなります。
この時、小学生がインプットが20しか無いにもかかわらず、アウトプットが20あると、アウトプットの大きさだけ比較して、小学生の方ができると思いこんでしまう傾向があるということです。
この会話言語能力と学業用言語能力の違いについては、様々な局面でしっかり考える必要があると思います。
例えば、自分が英語を身につけたいと考えるときに、どの能力をどのくらいつけるのか。
小学校での英語早期教育について語るときに、どのレベルを想定しているのか。
私は街中の英会話学校が会話重視のアプローチで、かつそこに通えばしゃべれるようになると宣伝していることについては、非常に否定的ですが、彼らが前者の会話言語能力について話しているのであれば、それは目くじら立てる話ではないのかも知れません。
問題は、英会話学校に通う生徒の側に、そこに行けば学業用言語能力が身につくとの誤解があるのではないかということです。
なんだかんだ言っても子供の方が語学習得のスピードは速いでしょうし、彼らが5年から9年かけて学業用言語能力がようやく身につくのであれば、我々大人は、それよりさらに時間がかかるでしょうし、それは決して駅前留学の会話重視のアプローチでは身につかないものでしょう。