2006-08-05
共通理解
以前、すべての音が聞き取れていなくても、理解できるという記事を書きました。
話し手と聞き手の間に、共通の発音についての約束事があるならば、話し手が一定のルールで音を変質させた(音のつながりや脱落)スピーチでも、聞き手は同じルールで元に戻すことができます。
それは例えば、英語口語の want to が wanna と発音され、いつの間にか綴りでも wanna という表記が現れるがごとく、日本語の旧仮名遣いや、撥音便や促音便も、最初は語呂の良さで逸脱していた物が、後に表記が追いついたのかも知れません。
聞き手の方も、実は頭の中で補完したりしているにもかかわらず、結果としてしっかりと再現できていることから、すべてが聞き取れているように錯覚しているのではないでしょうか。
これは音のレベルですが、テキスト自体のレベルでも同様のことが言えるでしょう。
周りが日本人ばかりの日本に住んでいる我々は(他の国の人以上に)、共通理解に頼って、細かいところまでは記述せず、「そこまで言わなくても分かるでしょ」というような記述になっているでしょう。
そこは共通理解というスキーマに基づいて、補完して理解しているわけです。
結婚して○○年。
「愛しているよ、感謝しているよ」なんて、言わなくても分かるだろって、旦那さん。
奥さんは必ずしもそこまで意味を補完していないかも知れませんよ。
生寅の会 インプット能力とアウトプット能力
図1をご覧ください。
X軸はインプットの能力を、Y軸は、アウトプットの能力を表しています。
漢字でも、読めるけど書けない漢字がたくさんあるように、英単語でも読み聞きして分かるけれど自分では使いこなせないものがあります。
であれば、インプットとアウトプットの関係は、同じレベルで伸びていくのではなく、どうしても、インプットほどアウトプットが伸びないという、曲線になります。
これはネイティブスピーカーであってもそうであり、図のNは、ネイティブスピーカーを表します。
次にCは、優秀な英日翻訳家を表しています。
英語のインプット能力(ここでは書かれた物を理解する能力)にとても優れていて、ネイティブスピーカーに近いレベルですが、話すなどのアウトプットはあまりできません。
それでもCの人が優秀な英日翻訳家であるという事実を否定する物ではありません。
優れた英語のインプット能力と、日本語のアウトプット能力があれば、優れた英日翻訳はできるわけですから。
Aは、数年の語学留学を経て日本に戻ってきた人で、友人との会話は極めてスムーズですが、意外とTOEICでは点数が伸びないというような人です。
表向き、会話ができるので英語ができるように思われるのですが、実はそうではありません。
我々が相手の英語力を判定するときに、インプット能力を評価するのは難しいので、アウトプット(特に会話)能力を見てしまい、結果として誤った判断を下すことがあります。
よく聞いてみると、内容は大したことを言っていなかったりするわけです。
さて、我々はその間のBにいると思いたいのですが、これからNを目指して頑張るわけです。
X軸が、二つのエリアに分かれています。
左側を「子供英語」、右側を「大人英語」と呼ぶこともあります。
海外に引っ越した子供が、日常会話は割と早期に身につけるのに対し、深い内容のやりとりをするレベルに達するには、実はさらに長い期間がかかるという研究結果があるらしいです。
ちまたの英会話学校が目指しているのが子供英語で、かつ学習者もそれを知った上で学校に通うのであれば本人の責任ですが、学校側がそれを明らかにせず、学習者も誤解したまま通うのであれば、問題でしょう。
海外駐在員の家庭でも、学校は現地校に通わせつつ、自宅では日本語で、その日本語がなめらかなので両親も心配しないというケースがあります。
家庭での親子の会話は内容も語彙も限られており、それだけを当てにしていると、日本に戻ってきたときに大変なことになるでしょう。